芭蕉の俳句で有名な松島、若狭の海に浮かぶ天の橋立、安芸の宮島はいわずと知れた日本三景です。
日本三景に比較すると、その知名度がずっと低くなるのが日本三奇です。
日本三奇の中で最も知られているのは、霧島は高千穂の峰の頂上に突き刺さっている天の逆鉾でしょう。
第二番目が宮城県塩釜神社にある塩釜。これは訪ねる人は結構多いかもしれません。
日本三奇中、殆どの人がその名も知らず、訪れる事も少ないと考えられるのが石の宝殿です。
石の宝殿とは生石神社のご神体として祭られている人工の巨石の別名です。
生石と書いて「おおしこ」と読ませることも不可思議ですが、それ以上にご神体の巨石は
訪れた人を釘付けにします。それほどインパクトのある、しかも明らかに人工の巨石が
姫路からそう遠く無い山中に鎮座しています。
この巨石は殆どの参拝者の生活価値観を潜在的、顕在的に変えうる力を宿しています。
この地がいずれ観光化され、神体石が崩壊していくことは避けなければなりませんが、
より多くの人々に訪ねて頂きたい所です。
JR宝殿駅から徒歩で30分位の所に、まるでオーストラリアにあるエアーズロックのような
全山一枚岩盤でできている竜山の中腹に生石神社はあります。
神体石はこの巨大岩盤をくり貫くように削り出された異形の人工巨石です。
縦、横、高さ約7m〜10mの立体は推定500〜1000トン近くはあるでしょう。
巨石の底部は巨大岩盤と一体になっていると言われています。そして底部の周囲には
晴雨に拘わらず水位の変わらない池があり、まるで巨石はその池に浮かんでいるような
構造となっています。
同行したあるデザイナーが”不謹慎にも”そのご神体を「テレビ岩」と呼んでしまいましたが
それほど、不思議でインパクトのある遺跡なのです。
神社の由来記には、この神社の創建が約2000年前の人皇十代崇神天皇によるものであること、
そして創建時既にこの奇石がそこに存在しており、神代に大国主によって創られたと
明記されています。
要するに、明らかに人工構造物である石の宝殿は未だにその生まれ、目的は
不明なままなのです。通常の歴史観や技術観では到底その存在を明らかにすることはできないでしょう。
そうしたものが現実に、長く温存されながら日本に存在する事、
それは非常にすばらしいことだとは思います。
1996泰山記